“123万円の壁”とは?年末調整に強い社長の人件費戦略

経理コンサル

年末が近づくにつれ、パート・アルバイトを多く雇用する企業経営者にとって避けては通れない問題が浮上します。それが、いわゆる「123万円の壁」問題です。年末調整の時期に直面するこの問題は、単なる税務処理の話にとどまらず、従業員の勤務シフトや人件費、さらには経営効率全体にまで波及する重要課題となっています。

本記事では、「123万円の壁」が意味するもの、その制度変更が企業運営に与える影響、そして経営者がとるべき具体的な対策までを、実務に即して解説します。

なぜ、年末に急にシフトが空くのか?

多くの中小企業にとって、パート・アルバイトは事業を支える重要な戦力です。しかし、「123万円の壁」によって年末になると一部の従業員がシフトを制限し始める現象が毎年のように起こります。

その背景には、以下のような複数の要因が存在します。

・年収が123万円を超えると配偶者控除が適用されなくなり、世帯全体の税負担が増える可能性がある点。
・所得税だけでなく住民税にも影響が出るため
・税制に関する正しい理解が十分でないまま、「○○万円を超えると損をする」という漠然としたイメージだけで労働時間を調整してしまうケース

特に年末商戦や繁忙期を抱える業種にとっては、この時期に急な戦力ダウンが起きることは致命的です。

人員不足によりサービスレベルが低下すれば、売上機会を失うばかりか、既存顧客の信頼も揺らぎかねませんこうした影響を最小限に抑えるためにも、まずは制度の内容を正しく理解する必要があります。

“123万円の壁”って何?仕組みと変化を知る

「103万円の壁」という表現が以前は主流でしたが、税制改正を受け、現在では「123万円の壁」が現実的な基準となっています。以下では、制度の基礎から最新の動きまで、段階的に整理していきます。

1.そもそも「壁」とは何を指すのか?

「壁」という表現は、主に“年収がある金額を超えると急に不利になるライン”を意味します。多くの場合、このラインを越えることで、税金や社会保険の負担が発生したり、控除の適用が受けられなくなったりするという経済的不利益が生じます。

パート・アルバイトの多くが配偶者として家計に貢献する立場であり、その収入が控除対象かどうかは、世帯全体の家計に直結する重要問題です。従業員本人が「損をしたくない」という心理で就労時間を抑制する傾向は、こうした制度の存在によるものです。

2.なぜ「103万円」から「123万円」に変わったのか?

背景には、所得税における基礎控除の拡充と、給与所得控除の見直しがあります。従来、配偶者控除の対象となる給与収入の上限は103万円でしたが、2020年度以降の税制改正により、合計所得金額が48万円以下(給与収入で言えばおおむね103万円)であれば控除対象となり、さらに調整措置により123万円まで拡大されるケースが登場しています。

つまり、給与所得控除と基礎控除の合算で年収ベースの上限が123万円となり、これが新たな“壁”として認識されるようになったのです。

3.この「壁」が超えられると何が起こるのか?

123万円を超えると、配偶者控除が段階的に縮小され、最終的には適用対象から外れます。さらに、社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」とも連動し、場合によっては従業員本人の保険加入義務や保険料負担が発生します。

こうなると、可処分所得が減る・税金が増える・手取りが減るといった、いわゆる“働き損”が現実化しやすくなり、働く側のモチベーション低下や離職リスクを招くことになります。

4.企業側が見落としがちなポイント

このような制度変化があるにもかかわらず、「いつも通りのシフトでいいだろう」と対応を怠ると、年末に急に人員が足りなくなる、または従業員の不満が高まるといった事態になりかねません。制度を軽視せず、経営の重要ファクターとして捉えることが、経営者には求められています。

“壁”を怖がらず使うための人材戦略

まず経営者が取り組むべきは、制度の最新動向を正確に把握することです。「123万円の壁」に対する不安が根強い中、経営側が状況を整理し、従業員と情報を共有することで、必要以上の労働抑制を防ぐことができます。

たとえば、年末にかけて人手が足りなくなる繁忙期には、壁を気にせず働いてもらえるようなインセンティブ制度や、労働時間に応じたボーナス制度を設けるなど、長期的に勤務してもらえる環境を整えることが重要です。

また、税制についての基本的な仕組みを従業員にも分かりやすく説明し、「働き損」への誤解を解消する取り組みも有効です。外部の専門家と連携し、年末調整の時期に合同説明会を開催する企業も増えています。

年末に勝つための人員配置と仕組み構築

まずは自社の従業員構成と給与体系を把握し、123万円に接近しているパート・アルバイトがどれだけいるかを分析します。その上で、年末に向けた人員配置の見直しを行い、必要に応じて短期的な補充人材の確保も検討します。

次に、税務の観点から従業員に与える影響を整理し、社内向けのガイドラインを作成。シフト調整の基準や、超過労働に対する補償制度などを明文化することで、経営者・従業員双方にとって安心して働ける環境が生まれます。

さらに労務管理システムや会計ソフトを活用して勤務状況をリアルタイムで管理し、壁に近づく従業員にはアラートを出す仕組みを構築することも効果的です。これにより、税務上のトラブルを未然に防ぐことができます。

※税務に関わる判断については、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

人件費を“壁”視点から戦略資源へ

「123万円の壁」は一見すると税務上の細かな制約に過ぎないように見えますが、実際には企業経営における人材戦略そのものに大きな影響を与える要素です。従業員の働き方を制限するのではなく、制度を理解し、柔軟なシフト設計と働きやすい職場環境を整えることこそが、長期的な経営の安定につながります。

年末調整の季節にこそ、人件費を単なるコストではなく戦略資源として見直す視点が求められています。今こそ、経営者としての一手を講じ、変化する制度に対応した持続可能な労務管理を構築していきましょう!