「売上が増えているはずなのに、なぜかお金が残らない」。そう感じたことはありませんか?特に事業が軌道に乗りはじめた個人事業主の方に多く見られる悩みです。努力の甲斐あって受注が増え、数字上の売上は右肩上がり。しかし、月末になると資金繰りに追われ、思い描いていた経営の余裕とはほど遠い現実に直面している方も少なくありません。
このような状況は、決して珍しいことではありません。むしろ、事業の成長段階にあるからこそ表面化する問題とも言えるでしょう。急速な売上増加に伴い、仕入れや外注、スタッフ増員など、様々な支出が増える一方で、利益として手元に残る金額が減ってしまうというジレンマ。これは「経営感覚」の不足が原因であり、数字の裏側にある構造を理解しないまま事業を拡大してしまうことに起因しています。
その原因は、単純なようで奥深い「売上」と「利益」の違いを理解していないことにあります。
本コラムでは、経営感覚を養い、真の意味で“儲かる経営”を実現するために必要な知識として、「売上=利益ではない」という基本に立ち返りながら、原価管理と経営判断のポイントを丁寧に解説します。経営の“数字”を自分の言葉で説明できるようになることで、事業の未来をより確実なものにできるはずです。
“利益”とのズレが生む経営の危機
「売上が伸びれば利益も増える」と考えてしまうのは、ごく自然なことです。売上という数値が伸びることは、事業が前進している証拠でもあり、達成感や安心感をもたらします。しかし現実には、売上の増加に比例して支出も膨らみ、むしろ利益率が下がってしまうケースもあります。たとえば、取引先の増加により外注費が嵩んだり、人手不足を補うために高額なアルバイトを雇ったりすることで、コスト構造が変化していくからです。
また、売上増加に伴う在庫の拡充や設備投資、広告宣伝費の拡大など、成長に向けた先行投資が先行し、結果として利益を圧迫する要因となることもあります。こうした投資は将来的な成果を見越したものであるとはいえ、短期的にはキャッシュフローを悪化させるリスクを含んでいます。さらに、税金や社会保険料といった、売上に伴って増える支出も無視できません。
このように、「売上=利益」と短絡的に捉えることで、誤った投資判断や拡大戦略を行い、最終的に経営を圧迫することになりかねません。経営者として大切なのは、「数字の裏側にある意味」を読み解く力を身につけることです。す。
売上と利益の構造的な違いとは
まず、売上と利益の関係を整理しましょう。
売上は「顧客から受け取る総額」、つまり事業活動によって得た総収入です。
一方、利益とはそこから必要なコストを差し引いた「残り」です。この差には、以下のような費用が含まれます。
- 仕入や原材料費
- 外注費
- 人件費
- 家賃・光熱費などの固定費
- 備品・消耗品費
- 広告宣伝費
これらを合算すると、売上がいくらあっても、支出がそれを上回れば当然赤字になります。特に見落とされがちなのが、「原価」の管理です。たとえば飲食店や製造業では、仕入や原材料の価格変動に敏感である必要があります。原価がわからなければ、商品の適正価格も判断できませんし、無意識に薄利多売の戦略をとってしまい、結果的に利益を圧迫してしまいます。
さらに、売上が伸びたタイミングで設備投資や人件費を増やすと、それが固定費の増加につながり、結果として利益を圧迫することになります。加えて、事業が拡大すると、経費の項目も複雑化しやすく、管理が煩雑になっていきます。このような状況において、数字の全体像を把握できていないまま経営判断を下すことは、大きなリスクを伴います。
また、個人事業主の場合、事業とプライベートの支出が混在しやすく、経費の正確な把握ができていないケースも多く見受けられます。これにより、実態以上に黒字に見えてしまうという錯覚に陥りやすくなります。経費として計上できる支出を把握していない、または適切な帳簿付けがされていない場合、正確な利益の算出が困難になります。
数字で読み解く健全経営のための指標管理
こうした問題を解消するには、まず「売上総利益(粗利)」の把握が必要です。粗利とは、売上から原価を差し引いた金額であり、事業の収益性を測る基本指標です。これを定期的に確認し、粗利率が低下していないかをチェックすることが重要です。粗利率が下がっている場合は、価格設定が不適切か、原価が高騰している可能性があります。早期にその兆候を掴むことで、迅速な対策が打てます。
加えて、商品やサービス別に利益率を分析することで、「何が儲かっていて、何がコスト過多なのか」が見えてきます。この情報をもとに、不採算部門の見直しや価格設定の見直しなど、戦略的な経営判断を下すことが可能になります。特に複数の事業を並行して運営している場合は、それぞれの収支構造を明確にすることで、限られた資源をどこに集中させるべきかの判断材料となります。
さらに、損益分岐点の理解も不可欠です。売上がいくらあれば利益が出るのか、逆にどのラインを下回ると赤字になるのかを明確にすることで、日々の経営判断に具体性が生まれます。これにより、価格交渉や仕入れ判断、販促活動などの戦術にも根拠を持たせることができます。
実務で始める利益改善の第一歩
では、どのようにこれらの管理指標を取り入れていけばよいのでしょうか。
1.日々の帳簿を整える
売上・経費の記録を正確に行い、最低でも月次で試算表を作成する体制を整えることが重要です。最近では、クラウド型会計ソフトの普及により、簿記の知識がなくても比較的簡単に帳簿管理ができる環境が整っています。こうしたツールを活用することで、リアルタイムでの収支把握が可能になり、経営判断の質が飛躍的に高まります。
2.固定費と変動費を明確に区別する
この区別が明確であるほど、売上の変動に応じた利益の推移を予測しやすくなります。たとえば、売上が多少減少しても固定費が高ければ赤字に転落する可能性があるため、固定費の見直しは利益確保の鍵となります。
また、一定のタイミングで専門家の力を借りることも有効です。税理士や経営コンサルタントに試算表を見てもらい、収益性の高い部門や課題のあるコスト構造を客観的に分析してもらうことで、自身では気づけなかった改善点が明らかになります。特に税務に関する事項は、制度改正や解釈の違いによって対応を誤るリスクがあるため、税務面に関しては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
持続可能な経営のために今すべきこと
“売上が増えた=儲かっている”という認識は、表面的なものであり、実際の利益構造を見誤る危険性を含んでいます。大切なのは、数字を「読み解く」力を養うこと。そして、その数字をもとにした経営判断を下せる体制を整えることです。
日々の帳簿整理、原価の把握、費用構造の見直しを習慣化し、小さな改善を積み重ねていくことが、持続的な利益確保への第一歩となります。最初は地味な作業かもしれませんが、こうした基礎の積み重ねがやがて大きな経営の差を生み出します。
経理に関する不安がある場合は、早めに専門家に相談し、安心して事業に専念できる環境を整えましょう。正しい経営感覚を身につけることで、売上の増加が確実に利益へとつながる、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能になります。


