事業を続けるうえで、「思ったより利益が出ていない」「いつの間にか経費が膨らんでいる」「予定よりも売上が伸び悩んでいる」といった悩みを抱える経営者は少なくありません。こうした状況に共通するのは、計画と実績の乖離が生じているにもかかわらず、その原因が把握されていないという点です。つまり、予算作成と予実管理の仕組みが不十分、または機能していないことが大きな要因となっています。
では、なぜ多くの中小企業や個人事業主は予算を作らず、あるいは作っても管理が不十分なままなのでしょうか。そして、予実管理を強化することがいかにして経営改善につながるのでしょうか。本コラムでは、来期に向けた経営戦略の基盤として、予算作成と予実管理の重要性について掘り下げていきます。
予算と実績の管理が不十分な現状
特に創業数年以内の事業者や、急成長を遂げつつある小規模企業において、予算や計画を明文化せずに経営判断を行っているケースは珍しくありません。日々の業務に追われるなか、数値管理が後回しになるのはある意味自然なことです。しかし、それにより利益率の低下や資金繰りの悪化、意思決定の遅れといった問題が発生しやすくなります。
たとえば、材料費や外注費といった変動費の増加が一時的で済むと判断してしまい、気づいたときには利益を圧迫しているというケース。また、売上の見通しが過剰であったために仕入れや人件費が先行し、結果的に赤字に転落するという例も少なくありません。これらはすべて、計画と実績を適切に比較・分析する仕組みがあれば、防げた可能性が高いのです。
なぜ予算作成・予実管理が機能しないのか
ここからは、なぜ予算作成・予実管理が機能をしないのか紹介します。
予算=形だけの資料
多くの経営者が、予算を税務署や金融機関向けの提出用資料として捉えており、自社の経営判断に活かすべきツールだと認識していない傾向があります。
そもそも予算の立て方が分からない
過去の実績を基にした数値の積み上げでは、環境変化に対応できず、精度の高い予算とは言えません。また、実績との比較分析(予実管理)を行う際にも、どの項目をどう評価すべきかの基準が明確でない場合、結局「作って終わり」になってしまいます。
さらに、クラウド会計ソフトや表計算ツールなどの導入が進んでいても、使いこなせていない、データを分析・活用できていないといった実情もあります。
予算策定・予実管理の導入メリットと仕組み
予算と実績を継続的に比較・評価することで、経営のブレを最小限に抑えることが可能になります。特に以下のようなメリットが挙げられます。
【予算と実績を継続的に比較・評価メリット】
・キャッシュフローの安定化
・コスト意識の向上
・従業員との目標共有による組織の一体感が生まれる
・経営者自身の判断スピードが格段に向上
キャッシュフローの安定化
月ごとの収入と支出を予測し、それに基づいた予算を設定しておくことで、突発的な支出に備えたり、資金不足のリスクを事前に把握したりできます。特に仕入や人件費など、タイムラグのある支払いが多い業種では、予算による資金計画が経営の生命線となります。
コスト意識の向上
予算を作成することで、どの部門でどれだけの費用が必要かを事前に可視化できるため、無駄な支出や過剰投資の抑制につながります。また、実績と照らし合わせて異常値が発生した場合、その原因を分析することで改善アクションにつなげることが可能です。
従業員との目標共有による組織の一体感が生まれる
売上目標や販管費の削減目標を各部署単位で設定し、その達成度を毎月評価する仕組みを整えれば、数値に基づく客観的な評価が可能になります。これは従業員の納得感を生み、業績に直結する行動への動機づけとなります。
経営者自身の判断スピードが格段に向上
予実管理によって数値の推移を継続的にモニタリングできれば、異常値や予期せぬ変化に即座に対応可能です。特に外部環境の変化が激しい昨今では、こうした「数字に基づく柔軟な意思決定」は生存戦略そのものといえます。
また、仕組みの一例として、月次の予算管理レポートを作成し、それを基にした定例会議を設けることで、PDCAサイクルの実践がスムーズになります。レポートには、売上・粗利・経費だけでなく、KPI(重要業績評価指標)を含めることで、経営の視点をより戦略的にすることが可能です。たとえば飲食店であれば「来客数」や「客単価」、製造業であれば「製品別原価率」など、自社に合った指標を盛り込むことで、現場との連携も強化できます。
これらの仕組みは、エクセルなどの表計算ソフトでも十分に対応できますが、一定規模以上の企業や成長フェーズにある事業者にとっては、クラウド会計や管理会計ツールの導入が精度と効率性を高める鍵になります。特に、リアルタイムでの数値共有や、部門別の管理、視覚的なダッシュボードなどが実現できるため、経営会議の質も格段に向上します。
実践的な導入プロセス
予算作成と予実管理を仕組みとして社内に定着させるためには、以下のようなステップが有効です。
まず、過去1〜2年の売上・費用実績を集計し、現状分析を行います。そこから来期の事業目標を設定し、それに基づいて各費目の数値を具体的に算出していきます。この際、売上・粗利・販管費・営業利益といった基本項目に加え、自社にとって重要な指標(たとえば来客数、工数、在庫回転率など)も盛り込むことで、より精度の高い予算が策定できます。
次に、毎月の予実比較を行うための運用ルールを定めます。月次の数字を会議の中で共有し、差異分析と改善アクションを記録に残していくことで、形式だけでない実効性のある管理が可能になります。会計ソフトや管理会計ツールの活用も、このプロセスを支える大きな助けになります。
また、税理士や外部アドバイザーの協力を得ることも重要です。とくに数字の読み解きに不安がある場合は、第三者の視点から定期的なレビューを受けることで、経営の客観性と安定性が高まります。
今後の取るべき行動
予算作成と予実管理は、「経理担当に任せるもの」でも「大企業だけのもの」でもありません。むしろ、変化の激しい時代を生き抜くためにこそ、中小企業や個人事業主こそが導入すべき経営の基本インフラです。数字に基づく判断は、感覚だけに頼る経営を脱却し、成長戦略の確度を高める強力な武器となります。
これから来期の事業計画を立てるにあたり、まずはシンプルな予算からでも構いません。事業の方向性と連動した数値計画を持つことで、行動に一貫性が生まれ、目標達成への道筋が明確になります。【※税務に関する判断は、必ず税理士にご確認ください】
本記事で紹介した実務支援の内容や導入ステップを参考に、ぜひ今からでも一歩を踏み出してください。税務に関する判断は必ず専門家(税理士)に相談しつつ、自社に最適な対応策を検討していきましょう。税理士さんのような専門家に相談して判断するのが一番です。


